世界をみる眼 An Eye for the World:Ceramics and Glass

先日、愛知県陶磁美術館を訪れてその常設展「日本と世界のやきもの」をみて周った時に愛らしいなぁ、素敵だなぁ、と気になる作品の多くに「西垣千代子コレクション」 と記載があることに気が付きました。

それから私の中でムクムクと西垣千代子さんという方への興味が湧いてきました。西垣千代子さんとはどんな方なのでしょう。

世界の古陶磁収集家 西垣千代子

愛知県陶磁美術館の常設展の魅力については以前も詳しく書きましたが、ここでは”日本陶磁史の全体像を系統的に理解できる”のみならずアジアを中心として世界の陶磁器にも力を入れた展示をしています。海外の陶磁器の収蔵数は規模としては小ぶりではありますがこれがあることによって常設展全体に奥行きが出て見ごたえのあるものになっていることを感じました。

そしてそんな世界の陶磁器の収蔵品の中に「西垣千代子コレクション」が多数散りばめられていたのです。

NishigakiChiyoko09

これらはその一部。

青釉条線文鉢 (イラン 1-3世紀)

美しい青に魅せられる青釉条線文鉢 (イラン 1-3世紀)

白釉藍黒彩花文皿 イラン 1864-65年

白釉藍黒彩花文皿 イラン 1864-65年

そして帰りがけに寄った館内のミュージアムショップでこの図録を見付けた時は思わずワァ!と声をあげてしまいました。

An Eye for the World:Ceramics and Glass from the Nishigaki Chiyoko Collection

世界をみる眼 古陶磁とガラス:西垣千代子コレクション


2014年 愛知県陶磁美術館で開催された西垣千代子コレクション展の図録。

西垣千代子さん(図録に2014年当時 85歳と記載があったので1929年生まれと推察します)は眼科医として活躍されるかたわら世界中の古陶磁、ガラス玉を収集されてきました。そして平成25年、81点の古陶磁・ガラス・漆器類、510点のガラス玉を愛知県陶磁美術館に寄贈されたとのことです。この図録はその寄贈を記念して行われた企画展のものでした。

西垣さんは幼いころから歴史に興味があり、考古学者になりたいと思っていらしたそうです。しかしそれでは食べていけないよ、と先生に言われ、また戦時中という時代もあり医者の道を選び眼科医として開業し10年ほどしたころ、かねてからの憧れであった考古学、民族史を勉強したいとの思いから世界中の古陶磁品の収集をはじめられた、と図録に書かれていました。

図録をめくり、改めて西垣さんのコレクションの凄さに驚きました。

荒川豊蔵の茶碗、加藤卓男のラスター彩陶板、ルーシー・リーの器、ミャンマーの皿、イタリアのコーヒーカップ、イランの皿、時代も地域もバラバラなコレクションであるのに西垣さんの眼を通して選ばれたこれらの物には共通する魅力があります。技巧をこらしただけの美しさによるものではないどちらかというと素朴な美しさ、人間味を感じる美しさ、とでも言えばいいんでしょうか。そんなものが私を虜にしました。

500点を超えるガラスビーズの収集品も圧巻で、一粒一粒の模様、配色、形など見飽きることのない魅力があります。

(※本当に素敵なガラスビーズ達なので図録の写真を掲載したいところですが著作権の関係もあるかと思うのでやめておきますね)

こんなものを集めて自分の物にするということはどんな喜びがあるだろうかと想像します。

コレクションを手放すということ

そして西垣さんは苦労して手に入れたであろうこれらの愛すべき品々を手放し、美術館に寄贈するという選択をされています。

もし私だったら、これらを所有していることの喜びを果たして手放すことが出来るだろうか?死ぬまで手元に置いておきたいと思ってしまうんじゃないか、と考えてしまいます。西垣さんは一体どうしてこれらの物を手放すことができたのでしょう。

もしかしたら西垣さんには所有欲を超えたもの、もっと深い真の意味でのこれらの物への愛があったのかもしれません。だからこそもっと多くの人に愛され続けて欲しいと手放す事が出来きたのかな、と。もしそんなお気持ちで寄贈されたとしたら、確実にここにその気持ちを受け取っている人間がいることをお伝えしたいなぁ。西垣さんの集めた美しい品々を眺めて生きる喜びを感じたりしている人間がいることを。

西垣さん、素晴らしい収集をしてくださり、そしてそれらを寄贈という形で公開してくださりありがとうございました。

西垣千代子コレクションは愛知陶磁美術館常設展内で見ることが出来ますよ。
愛知陶磁美術館
愛知県瀬戸市南山口町234番地
TEL:0561-84-7474
月曜定休
常設展入場料:400円